新しい形の競馬
ヴァージンのキャビンには、ビューティートリートメント・コーナーまであり、ヴァージンーレッドの特製チェアに掛けて、専門のビューティーセラピストからサービスを受けられる。
アロマテラピーによるショルダーマッサージ、ヘッドマッサージ、ネイルケアなどのメニューがあって、しかもフリーの美容コーナーなのだ。
キャセイーパシフィック航空が、初めて設置したのがドレッシングールーム、つまり更衣室だ。
大きなミラー、コートフック、折りたたみ椅子が付いており、おかけでトイレで着替えをしなくてもすむ。
女性たちにはうれしい設備だ。
キャビンのオフィス化ビジネスーサポートも充実してきている。
シートに個人用電話を装備したエアラインもあるし、インフライトーエンターテインメント(機内娯楽)のシステム、PES(パッセンジャー・エンターテインメントーシステム、次章で詳述)のコントローラーが、電話機能を備えている例もある。
筆者は旅にはパソコンを持ち歩きたくないほうだが(非日常なのだから)、忙しいビジネスマンやエグゼクティヴには必需品のようだ。
それに応えて、シートにパソコン用電源を内蔵したり、バッテリーを貸し出してくれるエアラインが増えてきた。
最近では、ついに機内でeメールが送受信できたり、インターネットに接続できるというサービスも出てきた。
これは、これからのトレントになることだろう。
ヴァージンは二〇〇〇年に、携帯電話にかかってきた電話をPESを通じて受信可能にする、画期的なシステムを導入している。
もちろん先進的なヴァージンのこと、eメールやインターネット接続も可能なエアラインにも含まれている。
また、ビジネスコーナーを設けているところも多い。
クレジットカードで決済できる電話と送信用ファックス、パソコン充電用コンセントなどを備えた、ビジネスーサポートのデスクスペースである。
機内のオフィス化はますます進行する気配だ。
かつてシンガポール航空は、キャビンにスロットマシンやシャワールームを設置したことがあった。
今ではゲームは、シートに座ったままPESで楽しめるようになったから、これは復活しないだろう。
しかしアメリカには、PESをマルチメディア端末にして、ゲームソフトを使った機内ギャンブルを提案している企業もある。
シャワールームは、ニーズがあるような気もする。
すべてはコストとニーズ(顧客の満足度)にかかっているが、現在開発中のオールーダブルデッカー、エアバスA380のキャビンが、ひょっとするとブレークスルーになるかも知れない。
エアバスでは、その広い空間を利用して、カフェ、ラウンジ、アスレチックジム、スリーピングーキャビンなどを提案している。
シャワールームもスペース的には充分だし、日本のJAMCOの技術を使えば可能性も高い。
キャビンーインテリアのこれからが楽しみだけれど、すべては今後のエアラインの動向にかかっている。
9・nで大打撃を受け、イラク戦争、sARsの流行で追い討ちをかけられた、世界のエアライン業界。
どう立ち直り、どう新機軸を打ち出して、空の旅のモチベーションを高めてくれるか。
苦闘しているエアライン各社に、筆者はエールを送りたい。
長いフライトの時間をどうやって過ごすか。
乗客にとって最大の関心事であり、最も現実的なテーマだ。
飛行機ファンや航空マニアは、ただ飛んでいるだけでうれしいものだが、長距離路線ではさすがに時間を持て余す。
そこで機内娯楽のシステムが発達してきたわけだ。
本章では機内で退屈な時間を過ごさないための機内サービスを取り上げよう。
開高健先生の語彙を拝借するなら、機内でいかに「時間をうっちゃるか」。
空の旅の初期、機内での最大のエンターテインメントは、フライトそのものだった。
乗客の機内娯楽といえば、まずは窓から下界の景色を眺めることだったのである。
これこそは、他の乗り物にはない醍醐味。
何よりも、飛行機で飛ぶこと、それ自体が最大のエンターテインメントだった時代である。
初期の旅客機は、いずれも窓が大きく、キャビンは与圧されていなかったため、窓を開けることができた。
シートの背のポケットには、窓からの眺望の参考に、と必ず飛行ルートの地図が入っていた。
初期のスチュワードもスチュワーデスも、乗客に景色を説明するのは大事な仕事だったのだ。
景色を眺める以外は、新聞や雑誌(クルーが搭乗前に購入)を読むくらい。
それにも飽きてキャビンを見回すと、あった!娯楽システムが。
それは、キャビンの壁面に設置された計器類だ。
とはいっても、せいぜい高度計、時計、壁に高度計(左)と外気温度計が並ぶ初期のキャビン(1930年、フォード・トライモーター)速度計くらいであるが。
当時は、高度、時刻、速度、これらの情報の提供も娯楽だったのだ。
一九二〇年代のアームストロングーホイットワースーアーゴシーでも、三〇年代の最初にスチュワーデスが搭乗したボーイング80でも、フォードートライモーターでも、当時の旅客機のキャビンに、高度計や速度計、あるいは外気温度計は必需品だった。
これらは、乗客に「飛行機」を実感させるという観点からすれば、立派な機内娯楽である。
ちなみに、飛行中に時差を調整して時計を進めたり遅らせたりするのも、スチュワーデスの仕事だった。
たとえば、ボーイング80が就航したサンフランシスコ~シカゴ線は、パシフィック、マウンテン、セントラルと三つの時間帯にまたがっていた。
テレビ、ラジオの登場しかし、本当に娯楽に値する機内エンターテインメントの試みも、ごく初期の頃から行われてはいる。
早くも一九二〇年代に英国のインペリアル航空で、機内グラマフォン(今や死語か)の実験が行われている。
グラマフォンとはレコードープレイヤーの古語、日本語では蓄音機(これも死語?)のこと。
もちろん手回し式だ。
つまりキャビンで乗客はレコードを聴いたのだ。
PES(パッセンジャー・エンターテインメントーシステム)の最初はオーディオだったといえる。
一九二五年四月には、ヨーロッパ大陸内を飛ぶ、これまたインペリアル航空のパントリー・ページ機(おそらくW8かW9型)のキャビンで、世界で初めて映画が上映された。
これは、手回し式の映写機を使い、キャビン前方の壁にスクリーンを用意したもので、作品はアメリカのファーストーナショナル社製作の「ロストーワールド」(コナンードイル原作、パワー・O・ホイト監督)たった。
アメリカでは一九二九年一〇月八日、TAT(トランスコンチネンタルーエアートランスポート、後のTWA)の大陸横断線を飛ぶフォードートライモーターで、初めて映画が上映されている。
こちらのプログラムは、ニュース映画一本とマンガ映画二本(タイトル不詳)だったということだ。
大型スクリーンによる機内映画の上映オーディオや映画に遅れて、一九三三年にはラジオが登場する。
アメリカン航空のカーチスーコンドー機内で、初めてラジオ放送が聴かれたというのだ。
アメリカン航空で五人目のスチュワーデス(看護婦資格を持っていた)、イゾラーリードルーターナーの回想によると、これは、ラジオが聴けるほどキャビンが静かだということをデモンストレーションするための試みたった。
ニューヨーク~シカゴ線でのことで、一人の乗客が”犠牲”になって、ずっとラジオを膝の上に乗せ続けていたのだそうだ。
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